地方創生の前に思うこと

私生活や地方自治に対して思うことなど

公営住宅家賃の現年分収納率100%の違和感

公営住宅とはご存じの通り、地方団体(自治体等)が運営を行っている住宅である。

公営住宅法に基づき設置され、所得の低い方々に対して低い家賃で住宅を供給するものであり、周囲の物件との家賃の差額の半分ほどは国から地方団体に補助がある。

 

その公営住宅の家賃の現年度賦課分(当年度に発生した分)が昨年度の決算で収納率100%を達成した。

幹部会議では手放しで褒められたようであるが、そのこと自体に違和感を覚えた。

 

公営住宅であっても、原則としては3カ月以上の滞納があれば退去させることはできるが、本人の状態によっては強制的に退去させないことも多い。

税金もそうだが、この手の料金などの滞納者は、滞納歴が長いことが多く、過年度分(過去の年度に発生した分)も払いきれていないことが多い。

そうなると、家賃の滞納があれば毎月の支払計画を立てて分納という形で納めてもらうわけであり、当然古い家賃から納めてもらうというのがスジになってくる。

古い家賃から納めてもらう理由としては、民法第488条を中心に考える必要がある。

(地方団体には公法上の強制徴収力を伴った税金などの債権と私法上の給食費市営住宅家賃などの債権がある。)

 

民法第488条第4項各号

「弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。

一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。

二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。

三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。

四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。」

 

上記の民法第488条第4項の各号から考えていけば、通常は古い家賃には延滞金が発生する可能性があり、債務者の利益を考えれば古い方から納めてもらうことになる。

 

ただ、その前に民法第488条第2号では以下のようになっている。

 

民法第488条第2号

「弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。」

 

つまりは家賃をもらう側の債権者がどの年度のどの月の家賃に充てようと、家賃を払う側の債務者が文句を言わなければいいということである。

債務者が文句を言っていないのだから、何も問題はないだろうと思われるかもしれないが、それには理由がある。


延滞利息をつけていないからである。

 

延滞利息については、公営住宅法借地借家法市営住宅関連の条例には記載がない(当団体の場合)ため、当団体ではほかの法令等に定めのない収入の延滞利息に対して包括的に適用できる条例を制定してあり、それを適用することになる。


つまりは、市営住宅関連の条例に定めがないから、そちらの条例を適用するようになっている。


そちらの条例では延滞利息を首長の判断で取らないようにすることもできるようにしているのだが、それはあくまでも例外的な措置であり、すべてに適用されるものではない。

 

ここから先は私に調査権がないので推測での話になるが、個別に判断する基準や要綱を定めずに、単純に最初から全件に対して延滞利息をつけていないのであれば、本来得られるはずの住民の利益を、公務員の勝手な判断で放棄していることになる。

市営住宅の入居者に延滞利息をつけるのは酷だという話であれば、市営住宅関連の条例に延滞利息をつけない旨を明記すれば解決されるのであるが(まともな議会であれば、議会を通らないと思われる。少しでも利息をつけなければ、納期までに納めた人が相対的に損をする不平等さが出てくるため。)、それを行うこともせずに、公務員の勝手な判断でそのような事務を行っているのであれば、その不作為について争う裁判になった際には確実に負けると思われる。


また、その時には国家賠償法第1条第2項に基づいて、それまで見逃してきた延滞利息をその職員が地方団体から請求されることになると思われるが、その職員はそこまで考えて事務を行っているのだろうか……。

 

議員がそこに気づいて指摘するか、住民の方々が住民監査請求をしてくれれば解決されるのだろうが、内部からいくら言っても変わらないのが地方団体の現状である。